「棗さん…ここが商いの本場っすよ…。」


“黒猫盗賊団”の仲間が息をのみながら言った。
見た感じはそこまで派手ではなかったが、その分広くて店がズラッとあった。


「んな事は分かってる。とにかく片っ端から盗ってこい。」

「分かりました。」



++白狐の変化忌憚++



「キャー!」

「黒猫盗賊団がきたぞー!」

「それ私のよー!!」



「…バーカ。楽勝すぎだっつの。」


黒猫の面を付けた、村人(?)により、黒猫盗賊団のリーダーの様な人物・棗が
商いの本場・大阪で金品を全て奪い取り、屋根の上で隣町に盗みに行っている仲間達を待っていた。


「棗さーん!」

「んだようっせー…。」


その棗が黙るのも分かる。
帰ってきた仲間は千両箱を1つも持っていなかったのだ。
これにキレたか、その黒猫の面を付けたリーダーらしき者は殴る蹴るなどの暴行を加えた。


「てめぇら…ふざけてんのか…?」


怒りMAXの棗はもう殺しかねない勢いで暴行を行った。


「…で?なんで、なんも盗ってきてねぇんだ?」


怒りが収まった。というより、呆れ返った。と言った方が正しいだろう。


「そ・・・それが、俺達が江戸の八百八町(はっぴゃくやちょう)にある
 「野田屋」(野田先生が商いをする廻船問屋(かいせんどんや))の蔵にある千両箱を盗もうとしたら
 首筋に刺青と思われる妙な痣を持ち、白い狐の面を付けた奴に邪魔されまして…!!」

「髪の長さからして、女である事に間違いはないんですが…そいつが、腕の立つ強い奴なんです!」

「最初は、俺達と同じ同業の者かと思ったんですが俺達に近づいて来て
 いきなり鎖鎌を振り回して来たんですよ。満足に武器を持っていませんでしたので
 このままでは役人に気づかれてしまうと思い、仕方なく逃げ帰って来たと言う訳なんです…。」

「ほぉ…、女だてらに盗人まがいな事をしている訳か…。」


仲間の話を聞いた棗は不気味にニヤリと笑った。


「…棗さん?」

「…今夜、そこに行くぞ。」

「えっ!?何考えてんすか棗さん!?」

「あそこは危険で」

「盗みに失敗したお前等が言える立場か?」


棗はギロリと睨み付けると、仲間は黙り込んだ。


「「「………………。」」」

「今夜…行くぞ。」


******


そして夜―――。

"黒猫盗賊団"は江戸の八百八町へ向かった。
仲間達は恐れながらも黙って棗の後に付いて行く。
棗が笑う=興味を持った瞬間でもあるからだ。
面を付けていて分からなかったが、普段一緒にいる棗の事は大体分かる。



朝の夜明けに、「野田屋」が店を開ける。
商いをする主人である野田先生。女ったらし(?)である番頭の殿内明良。手代(てだい)の安藤翼。
住み込み奉公人の美咲&メガネ君、そして…左目に眼帯を付けている蜜柑が商いの準備を始める。


「今日も天気がいいですね。」


野田先生は眩しそうに手をかざしながら空を見上げた。


「そうやね。じーちゃんの部屋の窓開けてくるな!」

「無理にじーさん起こすなよー!」

「はーい!」


翼がダンボールを持ちながら言うと、蜜柑は振り返らずに返事だけ返して元気に走っていった。


「じーちゃんおはよ!」

「蜜柑…。…おはよう。」


蜜柑は、病の床に伏せった祖父と共に"野田屋"に住み込みをしていた。


「窓開けるな!今日もええ天気やで!」


窓を開けて、「きちんと寝ててな!」と言い残してから、また商いの準備に戻った。
その時丁度、棗達が"野田屋"に付いたところだった。
蜜柑はその様子に気付き、"黒猫盗賊団"の近くに寄った。


「またあんた等かい。諦め悪いんちゃう?」

「諦めが悪くて結構だ。」

「…あんたがリーダー?」

「だったらなんだ?」


棗は顔色一つ変えずに言うと、蜜柑は棗をじっと見つめてニヤリと笑った。


「(じーーーー…。)…随分強そうやん。」

「で?」

「…悪いけど、こっからは1歩も通らせんで!」


蜜柑は鎖鎌を取り出して構えた。


「・・・別に通らねぇよ。」

「へ?」


予想外の棗の言葉に蜜柑は思わず素っ頓狂な声を上げた。


「そんな事で来たワケじゃねーし。」

「じゃあ何しに来たん?戦いに来た?それならウチかて負けへんで?」


ニコニコと笑いながら言う蜜柑は、怖いもの知らずのように鎖鎌を振り回し始めた。


グラッ


「!?」


いきなり蜜柑の視界が歪んだ。
目にも止まらぬ速さで棗が蜜柑を抱えたのだ。
…俗に言う“お姫様抱っこ”で。


「なっ、何するんや!」

「見て分かんねぇのか?バーカ。」

「誰がバカやっ!ウチ、バカやないっ!」

「バカだろが。水玉。」

「へ?」


レベルの低い言い争い(?)をしている途中に発した
いきなりの棗の言葉に、またしても素っ頓狂な声を上げた。
すると、風で蜜柑のパンツが見えていた。


「な…っ!こ、この狐ー!!!」

「は?お前だろーが。」

「うっさいわボケー!!」


顔を赤く染めながら叫び、戻る事さえ忘れている蜜柑と
そんな蜜柑にあくまで冷静に対応する棗を見ている仲間は
『『『『低脳だな…』』』』と思いながら着いていった。


******


〜一方こちらは"野田屋"〜


「蜜柑さん、遅いですね…。」

「ちょっと行ってくるとか言ってたけどよ。」


お茶を啜りながらのんきに言う野田を見て、翼は『のんきだなー;』と思いながらお茶を啜った。


「美咲ちゃん今日も可愛いねーv」


殿が美咲の首に手を回してニコニコと笑いながら言ったが、美咲はその手をどかしながら言った。


「はいはい。蜜柑なら誰かと、さっき話してたぞー?」

「誰かって・・・誰だよ?」

「あたしが知る訳ねーだろー!」

「同年代位の少年だったぜ!チビの昔の初恋の人ーvとかだったら面白いのになー!」


2人の言い争いに、通称メガネが割って入った。


「おいメガネ!その事もっと詳しく教えろよ!」


翼はいきなり目の色を変えてメガネに聞いた。


「えっとー、なんかチビがその時怒って見えたなー…。楽しそうにも見えた。」

「…その中に黒猫の面付けて、偉そうにしている奴は?」

「あぁ、そいつが蜜柑と話してたんだよ。美咲ちゃんと散歩している時にな。」

「なんか昨日がどーのこーのーって話してたけどなんかあったのか?翼。」

「………っなんで気付かないんだよ!しかも、なんで話し掛けなかったんだよ!!」

「な、なんだよいきなり;」


翼はメガネの胸倉を掴んだ。


「そいつは"黒猫盗賊団"のリーダーだよ!昨日黒猫盗賊団の奴等と蜜柑が戦ってたんだ!
 やべぇ…蜜柑の仕返しに来たのかも…。|||||」

「なぁ翼。」


何気に1人の世界にひたっている翼を呼ぶと、翼は目に涙を溜めながら返事を返した。


「なんだよ!」

「その黒猫盗賊団ってなんだよ?あたしそういうのに疎くてさー。」


美咲は服の袖で翼の涙を拭きながら言うと、一気に翼の涙が止まった。


「…美咲…お前疎すぎ!ありえねぇ!あそこまで大事になってて最終的にそれかよ!!」

「なんでさっきから怒ってんだよー!」



*説明中*



「マジで!?ヤバイじゃん!」

「だから言ってんだろが!さっきから!!」

「とりあえず蜜柑!」


美咲が振り返ると、そこには無人。


「いない!!」

「さっきからだよ!お前鈍い!!」

「うるせぇ!!」


低脳な言い争いをしていると、メガネが何やら紫色の紐を持ってきた。


「翼!」

「あぁん!?」


まるで、やくざのように言ったところはメガネもあえてスルーした。


「これ、蜜柑の帯じゃねぇか!?」

「…ヤバイな…。」

「…確実にヤバイな…。」


やっと冷静になり、我に返った翼と美咲がポツリとつぶやくと、全員一斉に我に返った。


「「「「とりあえず(チビ・蜜柑)を…!」」」」


******


「離せー!戻せやボケェー!!」


やっと我に返り、返すようにうながす(?)蜜柑だったが、下っ端や棗は聞く耳持たず。


「少し黙れ!」


いい加減にうるさい、と下っ端は多少ビクビクしながら言うと蜜柑はキッと下っ端を睨んだ。


「うっさい!大体あんたはウチに何の用や!!」

「………。」

「何か言えやこのアホー!!」

「少し黙れっつってんだろが#」


蜜柑は下っ端のその態度にムカつき、鎖鎌をおもむろに出した。


「うりゃぁっ!」


グサッ


その鋭い刃は、棗の腕を貫いた。


「っ痛ぅ……っ!」

「棗さん!」

「てめぇ棗さんに何す…っ!!」

「あんた等こそウチに何すんのや!人質のウチよりリーダーかい!!えぇ!?」


思わず蜜柑はこめかみに青筋を浮かべて血まみれになった鎖鎌で下っ端を脅した。


「………っ」

「……丁寧に扱えや。」


蜜柑は静かにそう言い放つと、下っ端はともかく棗まで黙りこくってしまった。


******


〜その頃翼たちは〜


「よしっ!じゃあ、蜜柑救出作戦!!」


翼はまるで船長のような格好をして言うと、美咲が制した。


「はいはい。ちょっと待て翼〜」

「その棒読みムカつくからやめれっ!」

「じーさんは安静にしてろよ。変に悪化したりしたら死にかけないかんな。」

「蜜柑は頼みました。」


あくまでも蜜柑の祖父は落ち着いていた。翼たちを信頼している証拠だ。


「おう!任せとけ!」

「で、蜜柑はそのリーダー?ボス?に攫われたんだろ?痕跡とかはない訳?」

「全く!」


翼の開き直った態度に皆翼の頭を殴った。


ボカッ


「「「「「自信満々で言うな!!」」」」」

「…ってぇ;」

「ま、まぁまぁ・・・;」


野田が必死に皆をなだめた後、殿が話を再開させた。


「残されたのはチビの帯だけ。他の痕跡がないとなると…この捜索事体かなり困難じゃね?」

「何言ってんだよ、バカ殿。」

「バカ殿…っ#」

「まーまー。」


翼の言葉に殿はカチンと来たが、しぶしぶ美咲が制した。


「俺等を誰だと思ってんだ?」


そう自信満々に翼が言うと、それが合図かのように殿以外の野田以外は狐に化け
野田は姿が消え、魂だけの状態となった。
殿は少し溜息を付いた後、皆と同じように狐に化けた。


「うっしゃあ皆、バラバラにちりばって蜜柑捜索開始ー!!」


翼が合図を出した後、皆は別々の窓から出て蜜柑捜索を開始した。


「あ、じーさん!何か察知したらちょっと手助けしてくれ!少しでいい!」

「当たり前だ。じゃあ、行って来てくれ。」

「おう!」


翼は裏口の方の窓から出て行った。


「…蜜柑…無事で居ィよ…。」


******


「…で?何の用や。手合わせ?金銭?手合わせなら負けへ」

「全部ハズレだ。」


蜜柑が鎖鎌を構えると、棗は貫かれた腕に包帯を巻きながら早めに答えた。


「何やそれ!えぇから早よ用件言い!!」


自分の予想が外れたからなのか、いきなり怒り出した。


「お前の…その眼帯、どうした?」

「!!…なんでや。別にあんたに関係ないやろ。」

「あぁないな。ただ見た事があるからつっかかっただけだ。」


あくまで冷たい目線を送りながらたんたんと答えた。
蜜柑は目線を逸らして少し間が空くと小さく口を開いた


「…前に…左目を切られた…ただそれだけや。あんたには関係ない…。」


説明をした後に、更に小さな声で言った。
まるで自分に言い聞かせるように…。
その瞬間、後ろから声が聞こえた。


「蜜柑!!」


その声は、聞き覚えのある声だった。


「翼先輩…?」


何の為に狐になったのかは不明だが、翼は既に人間の姿に戻っていた。


「何やってんだよそんなとこで!
 …ってゆーかその鎖鎌どうした!?血まみれじゃねぇか!!
 傷はないか?どこか痛いとことか…」


「ウチは大丈夫や。ただ…」


「あいつが」そう言い掛けた時、自分に疑問を持った。


あいつは関係ないやん…
      なんであいつが出て来るん…?


蜜柑はふいに後ろを振り向いたが、そこには棗の姿も下っ端の姿もなかった。


「ただ…どうした?」

「…ううん。なんでもない。行こう。翼先輩。」


蜜柑は静かに首を左右に振った後、柔らかく微笑んで言った。


「…おう!帰ったら即説教だからな!」

「えー!?なんでやー!!」

「勝手にいなくなった上に危険な行動に出たから。」

「しゃーないやんー!皆まで危険に晒す事も出来へんしー」

「バカ。そーゆーのがダメなんだよ!」


翼は蜜柑の頭をグリグリしながら言うと、蜜柑は「キャー」と笑いながらじゃれた。



そんな時、思い出すのは

  あの冷たい紅い瞳…。



知らず知らずの内に棗の瞳に捕らえられた少女。

さぁ、どうなるのでしょうか。

―――物語は“今”始まったばかりのようです―――。




〜おまけ〜


「棗さん。いいんすか?逃がして。」


屋根の上で棗の肩を揉みながら下っ端が聞いた。


「なんだよ今更。…別に特別な事をする為にあいつに会いに行った訳じゃねぇ。単なる好奇心だ。」

『『『『『特別な事…?』』』』』


棗のちょっとした一言に、その場に居た全員は疑問を持ったとさ。




〜END〜

投稿者からのコメント

ほのか様!死ぬ程遅くなって申し訳ございません…っ!!
もし気に入らなければ返品可です!!
煮るなり焼くなり切るなり破くなり好きにしてくださいませ…っ(ぇ


2005.11.26