中等部校長主催の花園会に招待された蜜柑と蛍(+棗、流架、陽一)。

然し、其処に待っていたのは楽しい花園会なんとは無縁の仕打ちが待っていた……。



++鬼の住処++



蛍は"若紫"

棗は"紅蓮の君"

流架は"向日葵の君"と言う花名を与えられたが、蜜柑と陽一には与えられず花園会が始まる。

豪華な食事も与えられず、嫌がらせに等しい正月の遊びばかりで

蜜柑は、隅っこでジッと座っているしかなかった……。


(帰りたい……)


茶金の瞳からは一粒の涙が零れ、委員長や野乃子ちゃん達の事を思い出しながら
ホームシックに陥ったかのように縮り籠まった。
そんな時だった……。


「……だったら、帰っておいでよ」


蜜柑に手を差し伸べるかのように上条 昴が、彼女の瞳から零れる涙を手で掬い取る。
突然の侵入。それも男子禁制である筈のこの場所に男である昴が何も悪びれもなく侵入をしてきたのに
"撫子"と"小梅"と名乗る花姫が、昴に詰め寄った。


「ちょっと…何なの貴方は!?」

「この花姫殿は男子禁制で、招待した覚えもないのに侵入してくるなんて図々しいわよ」

「良いじゃん、別に……」

「貴女達を見てると、蜜柑様を客人として丁重にお持て成しをしているとは思えなかったから
 私達が、蜜柑様を迎えに来た…それだけの事よ」

「「なっ…!?」」


いつの間にか椎野 ほのかも蜜柑の側に居た。
先程まで気配すら無かった筈なのに…。


「蜜柑様は客人よ。客人を丁重にお持て成しをするのが貴女達"花姫"の務めでしょ?
 …特に、何なの貴女達?花姫と言う立場を嵩(かさ)にして偉そうに振る舞って…。
 職務怠慢に値するんじゃなくて?」


ほのかが"撫子"と"小梅"に対して、クスッ…と笑いながら皮肉を言う。


「「なっ…曲者の分際で私達、花姫を愚弄する気!?」」

「本当の事を言ったまでよ。
 …もしかして貴女達2人は、本物じゃなくて…偽物の花姫なんじゃないのかしら…?」

「お黙りなさい!!
 曲者の分際で、花姫殿に侵入した挙げ句…土足で入り込むとは不埒千万!!
 私達、花姫と貴女なんかとは格が違うのを思い知らせてやる!!」

「意地っ張り…いや、見栄っ張りね……」


ほのかが"撫子"と"小梅"よりも、いち早くアリスを繰り出した。
その結果、2人の豪華な振り袖が壁や障子に突き刺さった水晶によって
無惨にもズタズタに引き裂かれていた。
振り袖だけでなく、顔や腕…足にも切り裂かれた後が鮮明に残っていた。


「………」


上空には、ほのかと花姫の戦況を見ていたかのように柚季がホバーボートから降りてくる。


「柚季…?」

「…今から、飛田や小笠原達と一緒に本当の"楽しい宴"をやるんだが
 蜜柑…お前も行くだろ?」

「行くvvv」


蜜柑は躊躇する事も無く、蛍達を振り切るかのように柚季の側へ駆け寄る。
柚季は蜜柑をお姫様抱っこし、再びホバーボードに飛び乗った。
先程まで、蜜柑をそっちのけにして楽しく遊んでいた蛍達を汚い物のような感じで嫌そうに見据える。


「…柚季、行って…」

「ハイハイ」


柚季と蜜柑を乗せたホバーボードは、初等部寮の方へと飛んで行った。
ほのかと昴も、退却をするかのように花姫殿の中庭から塀の屋根へと飛び移る。


「…これだけは言っておくわ今井さん。
 豪華な物に釣られて、あっさりと花姫になる事を承知するのは結構だけど…。
 貴女は、花姫による豪華な特典と蜜柑様…どっちが大事なの?」

「……っ!」

「でも…蜜柑様のあの様子だと多分…君の事を見損なったかもしれないよ。
 爪弾きにされた者の気持ちなんて君には一生理解出来ないだろうけど…じゃあね!!」


ほのかと昴は、蛍にそう言い残し…塀の屋根から通路の方へ飛び降りた。
恐らく、あの2人も初等部寮へ引き返したのだろう…。



その日以来から、蜜柑が蛍を相手にする事が無くなった…。
何とかして蜜柑と話をしたくとも、柚季達が鉄壁同然のようなガードをしているので諦めざるを得なかった……。
あの"鬼の住処"に行かなければよかったと泣きながら悔やんでいたが
既に後の祭りで、1人の少女が冷酷無慈悲な"九尾の狐"と言う物の怪に変貌していたと言う……。




終わり

後書き

ユリ様から小説のリクを頂きましたので、頑張って書きました。
蛍の台詞が殆ど無いのを、お許しください。
"花とゆめ3号"を読んだ時は、花姫殿でなく"鬼の住処"だと思いました。
白虎の蒼と玄武の彷徨(かなた)を出せませんでした…(涙)
こんな駄文で満足して頂ければ幸いです。
この小説をお持ち帰り出来るのはユリ様のみですので、それ以外の人は無断転載しないでください。

2006.1.25